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大阪地方裁判所 昭和62年(行ウ)29号 判決 1993年12月22日

原告

松尾千代一

外三五名

右原告ら訴訟代理人弁護士

木村保男

平山正和

木下準一

中西裕人

中井康之

右訴訟復代理人弁護士

山名邦彦

岩城穣

被告

和泉市長

池田忠雄

右訴訟代理人弁護士

比嘉廉丈

被告

遠藤與太郎

右訴訟代理人弁護士

筒井豊

主文

一  原告松尾千代一、同高橋理喜男、同松尾タマエ、同高田春次、同大植末一、同松尾千人、同上田俊継、同上田朝子、同竹本嘉、同竹本キヨエ、同松尾洋治、同松尾恵子、同河本文子、同脇田浩司、同脇田啓子、同中村義彦、同中村忍、同西野昌彦、同竹田博、同斎藤吉雄、同本田義男、同本田冨美、同一井正好、同斎藤喜代子、同高田タヅ子、同花田茂義、同花田美恵子、同葭田敏弘、同真田ふみ子の各訴えをいずれも却下する。

二  原告岡田スズエ、同三谷武久、同三谷紀久子、同高井鎌治郎、同高井良子、同土井美知治、同土井スミ子の被告和泉市長池田忠雄に対する、別紙物件目録(一)、(二)記載の土地を文化財として適切に管理し保存する手続をとらないことの違法確認を求める各訴えを却下する。

三  原告岡田スズエ、同三谷武久、同三谷紀久子、同高井鎌治郎、同高井良子、同土井美知治、同土井スミ子のその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告和泉市長池田忠雄(以下「被告和泉市長」という。)の次のような和泉市王子財産区(以下「王子財産区」という。)財産の管理を怠る事実は、違法であることを確認する。

(一) 別紙物件目録(一)、(二)記載の土地(「本件土地」という。)について大阪法務局泉出張所昭和六一年四月一四日受付第七八四一号でなされた、王子財産区より被告遠藤與太郎(以下「被告遠藤」という。)への所有権移転登記(以下「本件所有権移転登記」という。)の抹消登記を得るための措置をとらないこと。

(二) 本件土地についての占有を被告遠藤から回復するための措置をとらないこと。

(三) 本件土地を文化財として適切に管理し保存する手続をとらないこと。

2  被告遠藤は、王子財産区に対し、本件土地についてなされた本件所有権移転登記の抹消登記手続をし、本件土地を引き渡せ。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 原告らの訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

(原告ら)

一  請求原因

1 原告らはいずれも和泉市の住民であり、そのうち原告岡田スズエ、同三谷武久、同三谷紀久子、同高井鎌治郎、同高井良子、同土井美知治、同土井スミ子は王子財産区の住民であるが、それ以外の原告らは同財産区の住民ではない。

2 本件土地は、王子財産区財産であるが、被告和泉市長は、同財産区の管理者として昭和六一年三月三日、被告遠藤との間で、本件土地を代金九一五一万八三五〇円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」ともいう。)を締結し、その契約の履行として、売買代金の支払を受けて、同年四月一四日本件土地について本件所有権移転登記を了し、その頃本件土地を同人に引き渡した。

3 本件売買契約の違法無効

(一) 手続法上の違法による無効

(1) 財産区住民の同意の欠如による無効

財産区制度は、旧来住民の利用に供されてきた旧町村の財産について、市町村制の実施に伴って行われた町村合併によってこれら旧町村が独立の人格を喪失したのに伴い、これら旧町村の財産に対する住民の利用等を保護するため、これらの財産の管理処分に関する範囲内で旧町村に独立の人格を認めた制度である。このような制度趣旨からすると、財産区財産の処分に関しては、財産区の実情、財産区住民の利益が十分に反映されるような手続が必要となる。このことは、地方自治法(以下条文を摘示するときには「法」という。)二九六条の五第一項の規定の趣旨からも窺われるところである。

このような要請に基づいて、地方自治法は、財産区財産の処分については、地方公共団体の他の財産とは異なり、財産区の議会又は総会の議決(法二九五条、二九六条)ないしは財産区管理会の同意(法二九六条の二ないし四)を手続上の要件とし、また、当該財産区の設置の趣旨を逸脱する虞のある財産区財産の処分については、都道府県知事の認可を手続上の要件としている(法二九六条の五第二項)。これらの手続要件のうち、財産区の議会又は総会や財産区管理会は、その設置が任意的なものとされ、それらの機関が設置されていない場合にその議決や同意等に代わる手続要件を直接定める規定はない。しかし、それらの機関の議決や同意等が設けられた規定の趣旨や財産区の制度自体に内在する要請に照らすと、王子財産区のようにそれらの機関が設置されていない場合には、財産区財産の処分を財産区住民の意思を顧慮することなく市町村長の全くの裁量に委ねることとし、財産区住民の利益の保護は都道府県知事の認可権、監査権のみに頼ることとするのが地方自治法の趣旨であると解することはとうていできない。

更に、和泉市では、財産区財産の処分に関し財産区財産取扱要綱(以下「本件要綱」という。)が定められていて、その処分につき①当該財産に関する私人の権利関係を消滅させること、②当該財産の処分について財産区住民の同意を得ることを手続的要件としているが、これらの要件が財産区住民の利益を保護し処分の適否を財産区住民の意思にかからしめようとする趣旨のものである点において、地方自治法が財産区の議会又は総会、財産区管理会の制度を設けた趣旨と軌を一にすることなどをも勘案した場合、かかる手続的要件、とりわけ財産区住民の同意は、それらの機関が設けられていない王子財産区の場合地方自治法上の要請であり、これに反する財産の処分は、財産区の議会又は総会の議決ないしは財産区管理会の同意が必要な場合にそれらを欠いたのと同様の重大な違法性を帯び、無効になるというべきである。

しかも、和泉市では、従来から本件要綱に従い、財産区住民の同意のある場合にのみ財産区財産の処分を認め大阪府知事への認可申請を行うという取扱が定着していたのである。従って、被告和泉市長において、従来の要綱に従った取扱を無視して財産区住民の同意がないのに財産区財産の処分を認めるのは、裁量権の濫用ないしその範囲を逸脱するものであり、違法になると解せられる。かかる意味で、被告和泉市長の裁量権は、収縮しているというべきである。

そして、本件の場合、本件土地の処分に関しては、王子財産区を構成する宮本町会及び王子町会ともに町会総会を開いておらず、財産区住民の同意が得られていなかった。従って、本件売買契約は無効である。

(2) 大阪府知事の認可の無効による無効

本件土地の処分に関しては、法二九六条の五第二項による大阪府知事の認可が必要であり、同知事は、被告和泉市長の認可申請に対して、昭和六一年三月二七日付けで認可を行っている。しかし、右認可は、次の理由により無効であるから、本件売買契約は無効である。

イ 認可申請書添付書類についての瑕疵による無効

ⅰ 本件要綱によれば、和泉市における財産区財産の処分については、処分をしようとするものが当該財産に係る公用を廃止させて諸権利諸問題を消滅させた上、被告和泉市長に次の書類を提出して申請しなければならないとされる。

① 財産区代表者(町会長)の処分申請書

② 財産区関係者(町会役員)の同意書

③ 実行組合長の同意書

④ 財産区代表者(町会長)の確約書

⑤ 水利権放棄書

⑥ 財産区住民総会議事録

そして、その上で、被告和泉市長が法定の処分手続をなす旨定められている。即ち、本件要綱によれば、財産区財産を処分するためには、第一に、当該財産に係る権利関係を消滅させることを要し、それを証する書類として実行組合長の同意書と水利権放棄書の提出を求め、第二に、当該財産の処分について財産区住民の同意を得ることを要し、それを証する書類として財産区関係者(町会役員)の同意書と財産区住民総会議事録の提出を求めている。

ⅱ 本件土地(ため池とその堤)の処分申請に際して被告和泉市長に提出された実行組合長の同意書は、実行組合長山下常夫作成名義であるが、同人は本件土地を管理する王子実行組合の組合長ではないのみならず組合員でもなかったから、右同意書は無権限者の作成にかかるものである。従って、右同意書は本件要綱に定められた実行組合長の同意書ではなく、本件土地の処分につき王子実行組合が同意していなかったことは明らかである。

また、水利権放棄書もやはり手洗池管理責任者山下常夫作成名義となっているが、同人は王子実行組合の組合員ではなく、本件土地から利水していたものではないから、水利権放棄書を作成する権限を有しないことは明らかである。従って、右放棄書は本件要綱に定められた水利権放棄書でなく、本件土地の処分に際し水利権者が水利権を放棄したことはない。

ⅲ 本件土地の処分については、財産区住民の同意がない。このことは、本件土地の処分申請に際して被告和泉市長に提出された部落役員同意書及び財産区住民総会議事録自体から明らかである。

即ち、本件土地の処分申請に際して被告和泉市長に提出された王子町宮本町会の部落役員同意書は、その作成日付の昭和六一年二月一三日に本件土地の処分に同意する趣旨で作成されたものではなく、昭和五八年六月一日頃、本件土地について、登記簿の表題部の所有者欄に共有地と記載されていたのを王子財産区とする更正登記を行うために法務局に提出する目的で作成されたものである。従って、本件土地の処分につき宮本町会役員の同意は得られていなかった。

また、本件土地の処分申請に際しては王子町宮本町総会議事録及び王子町会総会議事録が提出されているが、いずれの町会においても、事前に本件土地の処分の可否を議題として町会総会を開催する旨の通知を町会の構成員に対してなした上での町会総会は開かれていない。このことは、右各議事録の上からも、役員らが出席した上で出席者らが勝手にその会合を総会扱いすることを承認して総会と称することにした旨記載されていることからして明らかである。従って、本件土地の処分について同意する町会の決議はなされていない。

ⅳ 本件土地の売却については、被告和泉市長から昭和六一年三月四日付で大阪府知事に対しⅰ記載の書類等を添付して認可申請がなされ、同府知事は同月二七日これを認可している。しかし、右添付書類の多くは、右記載のように作成権限のない者によって作成され、あるいはその内容が真実に反している。このように知事の認可の前提となった認可申請書添付の書類が真実に反し偽造されているときは、知事の認可に重大かつ明白な瑕疵が存するから、認可は無効である。

ロ 山下常一人の意思による売却、処分理由の不存在等による無効

本件土地の売却は、専ら宮本町会長山下常夫一人の意思に基づくもので、その手続も同人一人の意思により進められ、前記のように本件要綱に定められた手続が適正に履践されていなかった。また、被告和泉市長に対する本件土地の処分申請及び大阪府知事に対する認可申請において処分理由とされたところは、本件土地についての悪臭の除去、防護柵の設置等の維持管理の必要性及び処分代金を王子財産区内の水路や他のため池等の改修工事に当てるためというものであったが、そのような必要性はなく、処分理由として申請書に記載されたところはすべて偽造であって、本件土地を処分する正当な目的は何ら存しなかった。被告和泉市長ないし和泉市の担当者はこれらのことを十分に知悉していながら、知事の認可を騙取する意図をもって偽造書類等を添付して認可申請を行った。従って、かかる場合、大阪府知事の認可には重大かつ明白な瑕疵があるというべきであるから、右認可は無効である。

(3) 随意契約の制限に関する法令違反による無効

イ 本件土地は、随意契約により被告遠藤に売却されたが、本件売買契約については、次項以下で述べるとおり、随意契約によることができる場合として法令に規定された事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかであり、しかも、契約の相手方である被告遠藤において随意契約の方法によることが許されないことを知り、又は知り得たから、本件売買契約は法二三四条一、二項に違反し、その効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加えた法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情があるといえ、無効である。

ロ 地方自治法施行令一六七条の二第一項二号該当性

地方自治法施行令(以下条文を摘示するときには「令」という。)一六七条の二第一項は随意契約によることができる場合を定めているが、本件売買契約は同項二号の「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に当たらない。

本件売買契約では、本件土地について売却代金完納の日から一〇年間の現状有姿のままでの保存及び転売禁止並びにこれらに違反した場合の買戻しが条件となっているが、このような条件は買主に不作為を要求するものであって、とくに資力、技術、信用等の面で買主の選択を必要とさせるものではなく、また、国の場合に随意契約によりうる場合を列挙した予算決算及び会計令九九条のいずれにも該当しないことに鑑みれば、右条件が付されたからといって競争入札に適しないものとなることはないのは明らかである。

また、被告らは、本件売買が競争入札に適しない理由として、買主が本件土地について悪臭の除去、防護柵の設置等の維持管理をなすことが本件売買契約の条件となっており、これを実行させる必要があったことをも挙げるが、売買契約書にはそのような記載は一切なく、本件売買契約にそのような条件は付されていなかった。たとえ付されていたとしても、ため池の維持管理というのは初歩的かつ簡易な管理行為なのであるから、本件土地の購入能力のある者なら誰にでも履行できることであり、また予算決算及び会計令九九条のいずれにも該当しないことに鑑みれば、右条件も競争入札を不適切たらしめるものではない。そもそも、本件土地については、現状の池のままで永久保存し文化的遺産として適切な管理を行っていくことを目的として本件土地取得のための活動をしていた信太の森のシリブカガシを守る会(以下「信太の森を守る会」という。)から和泉市に対して買収の申入れがなされていたのである。このことからしても、右のような条件が競争入札を不適切たらしめるものではないことは明らかである。

ハ 令一六七条の二第一項五号該当性

本件売買契約は、令一六七条の二第一項五号の「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき」にも該当しない。

被告らは、本件土地の昭和五八年一二月時点の和泉市財産評価審査委員会の答申による適正価額一平方メートル当たり三万五〇〇〇円に、同月から昭和六一年二月までの期間の大阪府下全般の地価上昇率約一〇パーセントや他の近隣のため池の売買事例、不動産鑑定士による鑑定価格等をも参考にして、本件売買時点までの経済的な修正率を二一パーセントの増加とし、これを掛けて本件売買における売却価格を一平方メートル当たり四万二三五〇円と決定したというが、このような決定方法をとったのかどうかについては大いに疑問がある。和泉市財産評価審査委員会の答申を得るのにさほど期間も手間もかからないのであるから、売却時点で再度諮問し答申を得ればいいはずである。

また、たとえそのような決定方法がとられたとしても、昭和五八年一二月時点の価格が一平方メートル当たり三万五〇〇〇円というのは、昭和五六年七月時点の本件土地に隣接する宮谷池の適正売却価格が一平方メートル当たり五万七四七六円であったことからすると不当に安すぎるし、経済的な修正率の出し方も、大阪府下全般の地価上昇率を基準にするなど、正当な方法によるものとはいえない。更に、被告らの主張する価格決定の方法を前提にするとしても、前記令にいう「時価に比して著しく有利な価格」とは、およそ競争入札で得られる可能性のある有利な価格よりも更に格段に有利な価格をいうと解すべきところ、本件の決定価格は被告らの主張するところによっても時価よりもせいぜい一割程度高いに過ぎないから、競争入札で得られる可能性のある範囲内であり、「時価に比して著しく有利な価格」とはいえない。現に、本件土地については、本件売買価格の坪当たり一四万円より高い坪当たり一七万円で買いたいという希望者が他に存在していたのである。

ニ 黒鳥土地買収のための本件土地の売却

和泉市は、同市の公園用地として、被告遠藤所有の和泉市黒鳥町二六〇番及び同町二八〇番の田二筆(以下「黒鳥土地」という。)を買収する必要があったため、昭和六〇年初め頃から交渉を行っていたが、被告遠藤からは、買収に応じるための条件として、代替地を取得できるようにしてもらいたいとの希望が出された。そして、代替地としていくつかの候補地が上げられたが、価格等の関係で適当なものがなく、昭和六〇年中頃には、同被告が本件土地を代替地として強く希望するようになった。そこで、和泉市と同被告との間で本件土地についての売買交渉がなされるようになった。同被告は、黒鳥土地と本件土地の価格が釣合いほぼ同額になることや、両方の土地の売買が同じ時期になされることを条件として提示した。そのような流れの中で両方の土地の売買交渉が同時期に平行して進められ、その結果、本件土地についての売買契約が昭和六一年三月三日売買代金九一五一万八三五〇円で成立して、同年四月八日頃代金の支払いがなされた。しかし、同月九日には、実測面積が公簿面積より少ないことを理由として同被告に対し四二〇万円が返還されているので、実質的には売買代金は八七三一万八三五〇円となった。他方、黒鳥土地についての売買契約は、同年六月一三日売買代金八六七〇万〇八〇〇円で成立した。

以上の経緯からすると、本件土地の売買が随意契約でなされたのは、黒鳥土地を買収するためにどうしても本件土地を代替地として被告遠藤に売り渡す必要があり、しかもその売買価格を同被告の要望に従って黒鳥土地の売買価格と釣り合った不当に低いものにしなければならなかったからであることは明らかである。このように、本件売買契約は、随意契約によるべからざるものであるのに、専ら被告遠藤の個人的要望に応じる目的から、売買価格についての鑑定もしないで不当に低い金額で随意契約によってなされたもので、その動機、代金額の決定が不当に歪められたものであるから違法である。また、被告遠藤もその経緯を十分承知の上で行ったものであるから、本件売買契約は無効である。

(二) 実体法上の違法による無効

(1) 本件土地は、日本を代表する美しい森として古くから多くの人々に親しまれてきた信太の森の中心に位置し、「鏡池」として、文楽、歌舞伎に大きな影響を与えた葛の葉物語等において古来より国文学上の題材となっており、その国文学上の価値は極めて高い。また、本件土地は、天武天皇の白凰三年に建立されたと伝えられ多くの文化財と伝統行事を有し歴史的に由緒ある聖神社の一部を構成し、池自体は聖神社における禊の場として、堤は聖神社の参道としてそれぞれ古来より使用されてきたもので、聖神社と切り離すことのできないものである。このように、本件土地は、文化的、歴史的に極めて重要な価値を有している。

更に、本件土地は、古来より緑豊かな自然環境を有する地域であった信太の森の名残を現在に止めている聖神社の境内に位置しているが、ここにはシリブカガシの自生林を中心とする鎮守の森が残っており、このシリブカガシの自生林は、その群生の規模、位置からして極めて学術的価値の高いものである。従って、本件土地は、貴重な自然として残っている聖神社の森と一体となったもので、その自然環境的価値も大きい。

(2) 本件土地は、これを埋め立てて宅地化することを目的としていた被告遠藤に売却された。しかも、本件土地の売却代金の三分の一は和泉市の一般会計に繰り入れられ、残る三分の二は王子財産区に公共事業のための交付金として交付されたが、このような代金の充当使用は法二九六条の五に反するものであるし、売却代金は極めて低廉である。

(3) 以上のように、本件土地は、文化的、歴史的、自然環境的価値を有するから、管理者である被告和泉市長は、法二条三項一四号、同条六項四号、文化財保護法二ないし四条、九八条等に基づいて、国民共有の財産たる文化財として本件土地を保存すべきであるのに、これを怠り、かかる価値のある鏡池の消滅につながる被告遠藤に対する売却行為に及び、しかもその売却代金は極めて低廉で、その使途も違法であるから、本件売買契約は違法、無効である。

4 しかるに、被告和泉市長は、被告遠藤から本件所有権移転登記の抹消登記を得て本件土地についての占有を回復するための措置をとろうとしないし、また、本件土地は文化財として適切に管理する義務をも怠っている。

5 よって、原告らは、被告和泉市長に対して、法二四二条の二第一項三号に基づき前項記載の怠る事実が違法であることの確認を求めるとともに、被告遠藤に対して、同項四号に基づき王子財産区に代位して、本件所有権移転登記の抹消登記手続き及び本件土地の王子財産区への引渡を求める。

二  被告らの本案前の主張に関する主張

1 財産区についての住民訴訟の適用ないし準用

財産区の執行機関等の違法な財務会計行為等によって財産区に損害が生ずる場合のありうることは、普通地方公共団体の場合と異ならないから、財産区に関しても、その執行機関等による違法行為を是正して財産的基礎を確保し財産区ひいては財産区のある市町村全体の住民の利益を守る必要性のあることは、普通地方公共団体の場合と何ら変わるところがない。従って、財産区についてもその執行機関等の違法行為につき法二四二条の二の規定による住民訴訟を認めるべきである。このことは、法二九四条一項により、財産区の財産又は公の施設(以下「財産等」ともいう。)の管理及び処分又は廃止(以下「管理等」ともいう。)については地方自治法中地方公共団体の財産等の管理等に関する規定を適用するとされていることからも明らかである。財産区議会又は総会や財産区管理会(これらは常設の機関ではない。)あるいは知事等他に監督する機関のあることは、住民訴訟による監督を否定する理由にはならない。

2 財産区についての住民訴訟の原告適格

財産区の財産等に関し要する費用は、特に要する経費を除いて当該財産区のある市町村が負担するとされているし(法二九四条二項)、財産区の財産等の管理等については、財産区のある市町村の一体性をそこなわないように努めなければならないとされている(法二九六条の五第一項)。のみならず、財産区の財産等から生ずる収益を当該財産区のある市町村の経費の一部に充てることをも地方自治法は認めているのである(法二九六条の五第三項)。このように、財産区の財産等の管理等は、当該財産区の住民のみならず当該財産区のある市町村の住民にも直接的な影響を及ぼしている。そして、財産区について住民訴訟が認められる理由は、前述のとおり財産区の執行機関等による違法行為を是正して財産区の財産的基礎を確保し財産区ひいては財産区のある市町村全体の住民の利益を守る必要性に基づくのであるから、財産区についての住民訴訟の原告適格は、当該財産区の住民に限られるべきではなく、当該財産区のある市町村の住民にも認められると解するのが相当である。また、このように解しても、住民訴訟の範囲をいたずらに拡大することにはならない。

3 法二四二条の二第一項三号請求と同四号請求の競合

法二四二条の二第一項は、住民訴訟の形態として一号から四号までの請求を認めているが、同一の違法な財務会計行為に関して右四つの請求のうち複数の請求形式が成り立つ場合があることは当然予想されるところ、地方自治法はこれらの間の優先順位を定めていないし、複数の請求を行うことを否定する旨の定めもない上、地方公共団体の住民にその執行機関等による違法な財務会計行為に対する是正の機会を与えるという住民訴訟が設けられた制度理由からしても、一つの違法な財務会計行為について複数の請求を認めても何らの不都合もない。従って、同一の違法な財務会計行為について右四つの請求のうち複数の請求形式が成り立つときには、そのいずれを選択するか、またそのうちいくつの請求を行うかは、訴えを提起する住民の意思に委ねられているというべきである。このように解したとしても、住民訴訟の請求形式は右の四つに限られているから、いたずらに被告の範囲が拡張される危険はないし、被告に不当な不利益を与えるわけでもない。また、このように解さないと、複数の請求形式が成り立つときには右四つの請求の間での優劣関係が存することになり、原告住民は訴えを提起する段階でこの優劣関係の判断をせざるをえなくなるが、地方自治法はかかる優劣関係を規定していないし、優劣関係を定める基準も定かでないから、そのような判断を原告住民に強いるのは明らかに不合理である。

(被告ら)

一  本案前の主張

1 財産区についての住民訴訟の適用ないし準用

法二四二条の二の規定は財産区については適用されないから、財産区について同条の規定に基づく住民訴訟を提起することはできない。なぜならば、住民訴訟は、行政事件訴訟法五条のいわゆる民衆訴訟であって、「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」のであるが(同法四二条)、地方自治法において、特別区(法二八三条)、地方公共団体の組合(法二九二条)、地方開発事業団(法三一四条一項)についてはいずれも法二四二条の二の規定を準用する旨の規定があるにもかかわらず、財産区に関しては法二四二条の二の規定を適用ないし準用する旨の規定は存しない。法二九四条一項の規定は、財産区の財産等の管理等について地方自治法中地方公共団体の財産等の管理等に関する規定をそのまま適用する旨、即ち、原則として財産区には固有の議会、執行機関を置かず、財産区の権能は財産区のある市町村等の議会及び長をそれぞれ財産区の議決機関及び執行機関として行使されることを明らかにしたに止まると解されるから、同項により適用される地方公共団体の財産等の管理等に関する規定に法二四二条の二が含まれていると解することはできない。このように地方自治法が法二四二条の二の規定を財産区に適用ないし準用しなかったのは、その沿革上の理由の他、財産区についてはその権能が財産等の管理等の範囲に限定され課税権能もないから、そのような限られた権能の行使に関しては、知事及び財産区管理会を監督機関とし、法二九六条の三の規定による財産区管理会の同意及び法二九六条の五第二項、令二一八条の二の規定による知事の認可をもって財産区の財産的基礎の確保を図ることによって住民訴訟に代替しうるとの考えによったためである。

2 財産区についての住民訴訟の原告適格

財産区について住民訴訟が提起できると解するとしても、その原告適格を有するのは、当該財産区の住民に限られると解すべきである。なぜならば、特別地方公共団体について法二四二条の二の規定を適用あるいは準用する場合、特別地方公共団体にもその区域及び住民という概念がある以上、同条の「普通地方公共団体の住民」の語句は、当然に「特別地方公共団体の住民」の意味に解されるべきであり、従って、財産区に関しては右の語句は、「財産区の住民」の意味に解することになる。沿革的にみても、財産区制度は、市町村制の制定に当たって、財産を有する旧村、旧部落等に対して、元来市町村の一部であるにもかかわらずその財産に関して市町村とは別個の権利帰属主体としての地位を承認したものであり、その制度自体財産区財産についての利益の享受者が主として財産区の住民であることを承認したところから発しているといえる。従って、財産区についての住民訴訟の原告適格は、財産区の財産についての利益の主たる享受者である当該財産区の住民について認めれば足り、当該財産区外の財産区のある市町村の住民全体にまでそれを拡張することは、実質的に財産区外からの干渉を許す結果になり、財産区制度を認めた地方自治法の趣旨に反する。更に、法二九六条の五第三項後段が財産区の財産等からの収益の一部を市町村の事務経費に充当するばあいの財産区住民に対する不均一課税、使用料等の不均一徴収を定めていること、法二九四条二項で財産区の財産等に関し特に要する経費が財産区の負担とされていること、法二九六条の五第一項は、財産区と財産区がある市町村との一体性の要請を規定するが、これはあくまで財産区に市町村とは別個の権利帰属主体としての地位を認めてそれを前提とした上でのものであること等からも、財産区についての住民訴訟の原告適格が当該財産区の住民に限られることは明らかである。

3 法二四二条の二第一項三号請求と同四号請求の競合

同一の事項について法二四二条の二第一項三号請求と同四号請求とが競合する場合には、前者は訴えの利益を欠き不適法となる。なぜならば、四号請求は、地方公共団体の有する実体法上の請求権を住民が相手方に対して直接代位行使するものであり、地方公共団体の執行機関等の違法な財務会計行為の是正手段としては抜本的なものであると考えられるのに対し、三号請求は、怠る事実の違法確認の判決の関係行政庁に対する拘束力(行政事件訴訟法四三条三項、四一条一項、三三条一項)に基づき執行機関等を通じて間接的に地方公共団体の実体法上の権利を行使しようとするものであり、四号請求に対する補完的な手段と解せられる。しかも、四号請求による実体法上の権利の代位行使がなされた場合には、地方公共団体としてはもはや相手方に対して当該代位請求にかかる権利を行使して同一の請求をすることはできないのであるから、四号請求に併合して三号請求を求めてもその実質的な意味はないのである。従って、同一の事項に関して三号請求と四号請求を併合して提起した場合は、三号請求については訴えの利益を欠くことになるから、本件の場合、被告遠藤に対し王子財産区の実体法上の権利を行使して四号請求を行っている以上、被告和泉市長に対する違法確認を求める三号請求は不適法として却下されるべきである。

4 文化財としての管理、保存に関する怠る事実の違法確認請求

請求の趣旨1(三)の被告和泉市長に対する本件土地を文化財として適切に管理し保存する手続をとらないことの違法確認を求める訴えは、財務会計行為としての財産の管理行為ではなく、文化財についての管理、保存等いわば文化財保護行政に関する行為の違法確認を求めるものであるから、住民訴訟としては不適法である。のみならず、本件訴訟で被告とされているのはあくまで王子財産区の執行機関としての和泉市長であるが、財産区の行政権能はその財産等の管理等の範囲に限定され、財産区ないし財産区の管理者たる執行機関が右以外の文化財保護行政等一般の地方行政上の権能を有しないことは明白であるから、被告和泉市長には本件土地を文化財として適切に管理、保存すべき行政上の権能もなければ義務もなく、従って、この意味でも被告和泉市長に対する右訴えは不適法である。

二  請求原因に対する認否及び主張

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 請求原因3(一)(1)の主張は争う。この点についての被告らの主張は次のとおりである。

(一) 法二九四条一項によれば、財産区の議会、総会及び財産区管理会が設置されていない場合、財産区の財産等の管理等の事務は、当該財産区がある市町村の議会及び長をそれぞれ議決機関及び執行機関として行うこととされ、住民の同意を得なければならないことを定めた規定はない。従って、その場合、財産区財産の処分は、その財産に応じて、法九六条一項八号に当たるときには議会の議決を経て、それに当たらないときには議会の議決を経ないで、財産区の管理者である市町村長が行うことができる。なお、和泉市では、法九六条一項八号に基づき、「和泉市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例」(昭和三九年和泉市条例第一四号)が設けられ、同条例三条では、「地方自治法第九六条第一項第八号の規定により議会の議決に付さなければならない財産の取得又は処分は、予定価格二〇、〇〇〇千円以上の不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い(土地については一件五千平方メートル以上のものに係るものに限る。)又は不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払いとする。」と定めていて、右条例の規定は当然和泉市の財産区の財産の処分についても適用される。従って、本件土地の処分については、議会の議決を経ないで被告和泉市長においてなすことができるのである。

(二) 地方自治法は、財産区に議会又は総会もしくは財産区管理会が設けられたときには、財産区財産の処分のうち一定の重要なものについては、その議決ないし同意を得なければならない旨規定する(法二九五条、二九六条の三第一項)。しかし、それらの議決ないし同意と原告らの主張する財産区住民の同意とは同じ実質を有するものではなく、それらの機関が設置されていない場合に財産区住民の同意を得なければならない旨を定めた規定や、同意を得るための手続要件、同意の成立要件等を定めた規定は何ら存しないから、財産区の議会又は総会もしくは財産区管理会の制度が定められていることを根拠として、それらの機関が設置されていない場合に財産区財産の処分について財産区住民の同意を要すると解することはできない。

(三) 和泉市において本件要綱が定められたことにより、本来財産区財産の処分に関する法律要件ではない財産区住民の同意が要件となり、それを欠く処分が地方自治法違反に準ずる重大な違法性を帯びるに至ると解することもできない。本件要綱が定められたのは、被告和泉市長が財産区財産の処分について財産区住民の福祉増進の見地から右住民の意思を十分に反映させるべきことをも考慮したためであるとしても、本来地方自治法上、財産区の議会又は総会もしくは財産区管理会が設置されていない場合の財産区財産の処分については、財産区管理者がその裁量権の範囲内で決定すべきものとされているのであり、財産区住民の同意は要件とはされていない。また、本件要綱でも、財産区財産の処分申請に当たっては財産区住民総会議事録の提出を要請してはいるものの、住民総会の成立要件、議決要件等に関する定めはなく、いかなる場合に住民総会の同意があったといえるかの判断は、それぞれの財産区の実体に応じて被告和泉市長の裁量に委ねられていると解さざるをえないのである。従って、財産区住民総会決議に瑕疵があったとしても、そのことにより本件売買契約が直ちに地方自治法違反に準ずるような重大な違法性を帯び無効になるということはできない。

3 請求原因3(一)(2)の主張は争う。この点についての被告らの主張は次のとおりである。

(一) 大阪府知事に対する認可申請書添付の書類に原告ら主張のような瑕疵があったとしても、このことを理由として知事の認可が無効になるということはできない。本件要綱に定められた実行組合長の同意書及び水利権放棄書に関していえば、本件土地の処分当時現実に本件土地(ため池)の水を利用する者はいなくなっていた。また、王子町宮本町会の部落役員同意書は、昭和五八年頃本件土地の表題部の更正登記等の嘱託時に提出されたものが流用されたが、右更正登記等は元来本件土地の売却処分を行うことを前提としてなされたのであり、かつ、その後本件認可申請時までに同町会役員の同意が撤回された事実はなかったことから、実質的に本件売買契約について同町会役員の同意は存すると判断されたのである。王子町宮本町会総会議事録及び王子町会総会議事録の瑕疵については、前述のとおりこれが知事の認可が重大な違法性を帯びる原因とはならない。

(二) そもそも、法二九六条の五第二項の知事の認可は自由裁量行為であり、大阪府知事は、右認可申請に対して、財産区住民の福祉の増進の見地から一切の事情を考慮して当該認可の可否を決定するのである。従って、それらの事情の中には財産区住民の意思や財産区内の農業従事者の意思が含まれるとしても、大阪府知事は、それ以外に当該財産区の有する他の財産、処分理由、処分代金とその使途、処分後の財産の状態その他の事項等をも総合的に考慮して本件認可決定をしたものである。以上のような点からすると、本件認可申請書添付の書類に原告ら主張のような瑕疵があったとしても、このことを理由として直ちに知事の認可が違法になると解すべきではない。仮に違法になるとしても、その違法は重大かつ明白なものとはとうていいえないから、知事の認可が無効になるとはいえない。

(三) 原告らは、被告和泉市長ないし和泉市の担当者は、右書類の瑕疵等を知りながら大阪府知事の認可を騙取する意図をもって認可申請を行った旨主張するが、そのような事実はない。

4 請求原因3(一)(3)の主張は争う。本件土地の随意契約の方法による売却は、次の理由から有効である。

(一) 令一六七条の二第一項二号該当性

本件土地の売却の方針が決定されたのは、過去においては農業用のため池であった本件土地を当時ため池として利用する者がなく、管理も不十分であったために本件土地が相当荒廃し、ため池から発生する悪臭や事故防止のための防護柵の設置等の問題でこの管理を担当する王子財産区の地元住民が苦慮していたため、本件土地を売却し買主による適切な維持管理がなされることを期待するとともに、当該売却代金をもって王子財産区内の他のため池、水路等の維持管理に必要な費用に充てようとしたためである。ところが、本件土地の文化的、歴史的、学術的、自然環境的価値等に基づいてその保存を主張する「信太の森を守る会」の住民等からの本件土地の売却処分及び宅地化に対する反対並びに文化財としての管理、保存の要望が強かったため、被告和泉市長は、本件土地の文化財指定の可否等を調査検討したが、直ちに文化財としての指定を受けることは困難との結論に達した。このため、被告和泉市長は、右売却の要請とこれに反対する要望とを折衷する形で、申請どおり本件土地の売却を決定するとともに、将来事情の変更により本件土地の文化財指定の可能性が生ずる場合を慮って、売買契約において、本件土地を売却代金完納の日から一〇年間現状有姿のまま保存することとその間の転売禁止及びこれに違反した場合の買戻しを条件とすることにしたのである。このように、本件土地の売買は条件付きのものであったうえ、買主は右保存期間内本件土地に関する悪臭の除去や防護柵の設置等の維持管理を余儀なくされるので、買主にとって非常に不利な内容となっており、後記の本件土地の売却価格にも鑑みた場合、本件土地の売却を競争入札に付しても落札の可能性はなかった。このこと、及び、被告和泉市長の指導により買主をして本件土地に関する右のような維持管理を実行せしめる必要性に鑑みると、競争入札によっては目的を達することができないおそれがあったので、本件土地の売買契約は競争入札に適さず、令一六七条の二第一項二号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当した。

(二) 令一六七条の二第一項五号該当性

昭和五八年一二月時点の和泉市財産評価審査委員会の答申による本件土地の適正価額は、一平方メートル当たり三万五〇〇〇円であった。このため、被告和泉市長は、本件売買契約の締結に当たって他の近隣のため池の売買事例、不動産鑑定士による鑑定価格、大阪府下全般の土地価格の上昇率(前記答申時から本件土地の売却時点(昭和六一年二月)までのそれは、約一〇パーセントであった。)等を再度調査し、これらを参考にして、前記答申による適正価額に対する本件土地の売却時点までの経時的な修正率を二一パーセントの増加とするのが適正であると判断し、本件土地の売却価格を、一平方メートル当たり三万五〇〇〇円の二一パーセント増しの四万二三五〇円(売買代金額九一五一万八三五〇円)と決定した。不動産鑑定士の意見によっても、右修正率及び修正後の本件土地の売却価格は、一般のため池の売却事例に比してかなり高額であるとの意見であった。

以上のような本件土地の売却価格の決定経過及び本件土地の利用に関する前記条件による制限等を考慮すれば、右売却価格は時価より著しく高額であるから、本件売買契約は、令一六七条の二第一項五号の「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき」に該当した。

(三) 最高裁昭和五七年(行ツ)第七四号昭和六二年三月二〇日第二小法廷判決は、令一六七条の二第一項の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に関し、「普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約を締結するという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合」もこれに該当し、右の場合に該当するか否かは、「契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている法令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきもの」と判示している。右最高裁判例の趣旨からすると、前記(一)、(二)の理由から本件売買契約は令一六七条の二第一項二号及び五号に該当するとした被告和泉市長ないし和泉市の担当者の判断に合理性を欠いた点があるとはいえず、それが合理的な裁量の範囲を逸脱したものとはいえないから、本件売買契約を随意契約の方法によって締結したことに違法はない。

(四) 地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約は、令一六七条の二第一項の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になる(最高裁昭和五六年(行ツ)第一四四号昭和六二年五月一九日第三小法廷判決)。しかし、本件売買契約が令一六七条の二第一項の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかであるとか、被告遠藤が随意契約の方法による本件売買契約の締結が許されないことを知り又は知りえたとされるような事情はないし、その他、本件売買契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情もない。従って、たとえ本件売買契約を随意契約の方法によって締結したことが違法であるとしても、本件売買契約が無効であるとはいえない。

(五) 黒鳥土地買収のための本件土地の売却

和泉市による被告遠藤所有の黒鳥土地の買収と本件土地の売買とが相互に関連付けられていたことはないし、両土地の売買価格を釣り合ったものにするために本件土地の売買価格が不当に低額にされたという事実はない。また、そのために本件売買契約が随意契約の方法によってなされたということもない。

5 請求原因3(二)の主張は争う。

住民訴訟においては、財務会計行為の違法を理由とすべきものであるところ、原告らの主張する文化財の保存等に関する行為は財務会計行為に属さないから、その点からの違法を理由として主張することはできない。また、そもそも、文化財の保存等に関する事務は、王子財産区の管理者としての被告和泉市長の義務及び権限には属さないから、この点からしても原告らの主張は失当である。

その他、本件売買契約の代金額が不当に低額であることはないし、売却代金は、本件要綱に従い、かつ、大阪府知事に対する認可申請書に記載されたとおり処理されているから、その使途が違法であるともいえない。

6 請求原因4の事実中、被告和泉市長が被告遠藤から本件所有権移転登記の抹消登記を得て本件土地についての占有を回復するための措置をとろうとしないことは認めるが、その余は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一当事者間に争いのない前提事実

1  原告らはいずれも和泉市の住民であり、そのうち原告岡田スズエ、同三谷武久、同三谷紀久子、同高井鎌治郎、同高井良子、同土井美知治、同土井スミ子は王子財産区の住民であるが、それ以外の原告らは同財産区の住民ではない。

2  本件土地は、王子財産区財産であるが、被告和泉市長は、同財産区の管理者として昭和六一年三月三日、被告遠藤との間で、本件土地を代金九一五一万八三五〇円で売り渡す旨の本件売買契約を締結し、その契約の履行として、売買代金の支払を受けて、同年四月一四日本件土地について本件所有権移転登記を了し、その頃本件土地を同人に引き渡した。

3  被告和泉市長は、被告遠藤から本件所有権移転登記の抹消登記を得て本件土地についての占有を回復するための措置をとろうとしない。

4  原告らは、王子財産区ないし和泉市の住民として、本件売買契約が無効であると主張し、請求の趣旨記載のとおり、被告和泉市長に対して法二四二条の二第一項三号に基づき、本件所有権移転登記の抹消登記を得て被告遠藤から本件土地についての占有を回復するための措置をとらないこと等の管理を怠る事実の違法確認を求めるとともに、被告遠藤に対して同項四号に基づき、本件所有権移転登記の抹消登記手続及び本件土地の王子財産区への引渡を求めている。

第二本案前の主張について

一財産区についての住民訴訟の適用ないし準用

財産区は、市町村及び特別区のうちの一定範囲の地域及びその地域の住民を構成要素とする特別地方公共団体であって、独立の法人格を有するが、その権能は、所有する財産又は公の施設の管理及び処分又は廃止に限られている(法一条の二第三項、二条一項、一一項、二九四条一項、二九六条の五)。そして、法二九四条一項は、財産区の財産等の管理等については、地方自治法中地方公共団体の財産等の管理等に関する規定による旨規定しているところ、法二四二条及び二四二条の二は右の財産等の管理等に関する規定に当たり、右両条は財産区にも準用されると解するのが相当である(同項の規定の文言上は、地方公共団体の財産等の管理に関する規定がそのまま財産区に適用されるかの如くであるが、これは財産区には原則として固有の議決機関や執行機関が置かれず、財産区の権能は財産区のある市町村等の議会及び長がそれぞれ財産区の議決機関及び執行機関となってこれを行使することが予定されているからである。しかるに、住民訴訟に関しては、これを提起する住民について財産区のある市町村等の住民と区別された財産区固有の住民というものが観念され、後記二説示のように財産区についての住民訴訟の原告適格を有するのは財産区の住民に限られると解するのが妥当であるから、この意味で住民訴訟の規定は法二九四条一項により準用されるとすべきである。)。なぜならば、財産区の権能は前記のとおり限られ住民に税や分担金を課することはできないものではあるが、財産区の財産等は、その財産区の住民の福祉の増進のために管理、処分されるべきものであるから(法二九六条の五第一項)、その違法な管理、処分等がなされれば住民の一般的利益が害されるおそれがあり、財産区の住民に財産区の違法な財務会計行為を是正する手段を与える必要性があることは普通地方公共団体の場合と異ならない。また、財産区においては、財産等の管理等のうち一定のものについて、財産区議会又は総会の議決(法二九五条)、財産区管理会の同意(法二九六条の三第一項)及び都道府県知事の許可等(法二九六条の五第二項、二九六条の六第一項)による監督が予定されているが、このうち財産区議会又は総会と財産区管理会は常設の機関ではないし(現実にもこれらが設置されている財産区は少ないのが実情である。)、知事による監督が住民訴訟による監督に代替しうるほどの実態を有するものとは考えられず、地方自治法が知事による監督をもって住民訴訟に代わるものとしたとは解し難い。更に、住民訴訟の規定は、地方自治法第二編第九章の普通地方公共団体の財務に関する規定の中に置かれたもので、その性格からしても地方公共団体の財務処理に関する規定の一つであるといえるから、これらの諸点を勘案すると、法二九四条一項により準用される財産等の管理等に関する規定の中には住民訴訟の規定も含まれると解すべきである。

従って、この点についての被告らの主張は理由がない。

二財産区についての住民訴訟の原告適格

財産区について住民訴訟の規定の準用を認める場合、法二四二条の二第一項の「普通地方公共団体の住民」とあるのは「財産区の住民」と読み替えることになるので、その原告適格を有するのは財産区の住民に限られると解せられる。このように解することは、沿革的に財産区制度が、市町村制の制定に当たって財産を有する旧村や旧部落に対して市町村とは別個の権利帰属主体としての地位を与え、当該財産区住民がその財産につき有していた利益をそのまま確保できるようにすることを意図して設けられた制度であること、及び、地方自治法の上でも、財産区の財産等に関し特に要する経費は財産区の負担とされ(法二九四条二項)、財産区の財産等の管理等についてはその住民の福祉を増進するように努めねばならず、財産区の設置の趣旨を逸脱する虞のあるものについては都道府県知事の認可を要するとされていること(法二九六条の五第一、二項、令二一八条の二)等に鑑みても妥当であると考えられる。財産区の財産等の管理等については財産区のある市町村の一体性をそこなわないように努めねばならず(法二九四条二項)、財産区のある市町村は、財産区と協議して、当該財産区の財産等から生ずる収益を市町村の事務に要する経費の一部に充てることができるとされているから(法二九六条の五第三項)、財産区のある市町村ないしその住民も財産区の財産等の管理等について利害関係を全く有しないわけではないが、それは一般に財産区住民が財産区財産について有する利害関係に比すればはるかに希薄かつ間接的であり、このことをもって財産区のある市町村の住民にまで財産区についての住民訴訟の原告適格を認めなければならない根拠とすることはとうていできない。

従って、原告岡田スズエ、同三谷武久、同三谷紀久子、同高井鎌治郎、同高井良子、同土井美知治、同土井スミ子以外の原告らは王子財産区の住民ではないのであるから、これらの原告らの本件各訴えはいずれも不適法として却下されるべきである。

三法二四二条の二第一項三号請求と同四号請求の競合。

被告らは、同一の事項について法二四二条の二第一項三号請求と同四号請求とが競合する場合には、前者は訴えの利益を欠き不適法になると主張する。しかし、法二四二条の二第一項は、住民訴訟の形態として一号から四号までの請求を認めているが、同一の違法な財務会計行為に関して右四つの請求のうち複数の請求が成り立つ場合があることは当然予想されるところ、地方自治法はこれらの間の優先順位を定めていないし、複数の請求を行うことを許さない旨の定めもない。また、実質的にみても、三号請求は、怠る事実の違法確認の判決の関係行政庁に対する拘束力(行政事件訴訟法四三条三項、四一条一項、三三条一項)に基づき地方公共団体の執行機関等を通じて間接的に地方公共団体の実体法上の権利行使の確保を図ろうとするものであり、四号請求は、地方公共団体の有する実体法上の請求権を住民が違法な行為に係る相手方に対して直接代位行使するものであるが、地方公共団体の執行機関等の違法な財務会計行為を是正しその権利行使の実効性を確保する手段としてどちらが有効適切であるかは個々の事案により異なるのであって、一概に違法な行為に係る相手方を被告とする四号請求により債務名義を得て相手方が履行に応じないときには強制執行を行うという方法が三号請求によるよりも適切、直截であるとはいえず、執行機関等を被告とする三号請求による判決の関係行政庁に対する拘束力により地方公共団体自身による違法な財務会計行為の是正の実行を待つ方が目的を達するのに適切と思われる場合もあると考えられる。従って、同一の違法な財務会計行為について三号請求と四号請求の二つの請求が成り立つときには、そのうちのいずれかを選択するか、あるいはまた両方の請求を行うかは、訴えを提起する住民の意思に委ねられているというべきであって、四号請求を行うときには三号請求は訴えの利益を欠き不適法になると解するのは相当ではないから、この点に関する被告らの主張は理由がない。

四文化財としての管理、保存に関する怠る事実の違法確認請求

住民訴訟は、地方公共団体の執行機関又は職員による財務会計上の違法な行為又は怠る事実によって地方公共団体に財務上の損害が生ずるのを防止して財務行政の適正な運営を確保する目的で、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与えたものであるから、請求の対象となるのは財務会計上の行為又は怠る事実に限られるところ、請求の趣旨1(三)の被告和泉市長に対する本件土地を文化財として適切に管理し保存する手続をとらないことの違法確認を求める訴えは、財務会計行為としての財産の管理行為ではなく、文化財についての管理、保存等いわば文化財保護行政に関する行為を怠ることの違法確認を求めるものであるから、住民訴訟としては不適法である。

第三本案について

一本件売買契約の手続法上の違法による無効

1  財産区住民の同意の欠如による無効

地方自治法上、財産区財産等の管理等の事務は、当該財産区がある市町村の議会及び長をそれぞれ議決機関及び執行機関として行うこととされていて(法二九四条一項)、財産区財産の処分につき財産区住民の同意を得なければならない旨を定めた規定は存しない。

財産区制度は、前記のとおり市町村制の制定に当たって財産を有する旧村や旧部落に対して市町村とは別個の権利帰属主体としての地位を与え、当該財産区住民がその財産区につき有していた利益をそのまま確保できるようにすることを意図して設けられたものであり、そのような制度趣旨に鑑みて、地方自治法は、財産区に議会又は総会もしくは財産区管理会が設けられたときには、財産区財産の処分のうち一定の重要なものについてそれらの議決ないし同意を得なければならない旨規定している(法二九五条、二九六条の三第一項)。しかし、それらの議決ないし同意と財産区住民の同意とは実質的に同じものではなく、財産区に議会又は総会もしくは財産区管理会が設置されていない場合に財産区財産の処分につき財産区住民の同意を得なければならないこと等を定めた規定は一切存しないことに照らすと、財産区の議会又は総会もしくは財産区管理会の制度が定められていることを根拠として、それらが設置されていない場合に財産区財産の処分について財産区住民の同意を要すると解することはとうていできない。

また、和泉市では、財産区財産の処分に関し財産区財産取扱要綱(<書証番号略>、本件要綱)が定められていて、そこでは、財産区財産の処分申請に当たって被告和泉市長に提出すべき書類の一つに財産区住民総会議事録が挙げられているが(四条)、これはあくまで和泉市内部での財産区財産の処分を行う場合の取扱の要領を定めたものに過ぎないから、本件要綱に右規定が定められていることから直ちに、本来地方自治法上の要件とされていない財産区住民の同意が財産区財産の処分のための地方自治法上の要請となり、これに反する財産の処分が重大な違法性を帯びて無効になるということもできない。そして、このことは、たとえ従来から財産区財産の処分手続きが本件要綱に従ってなされてきたという実態があったとしても変わりはない。

従って、その余の点について判断するまでもなく、財産区住民の同意の欠如を理由として本件売買契約が無効であるとする原告らの主張は理由がない。

2  大阪府知事の認可の無効による無効

(一) 認可申請書添付書類についての瑕疵による無効

(1) 本件要綱に規定された申請書添付書類

本件要綱では、和泉市における財産区財産の処分については、処分をしようとするものが当該財産にかかる公用を廃止させて諸権利諸問題を消滅させた上、次の書類を提出して被告和泉市長に申請しなければならないとされている。

① 財産区代表者(町会長)の処分申請書

② 財産区関係者(町会役員)の同意書

③ 実行組合長の同意書

④ 財産区代表者(町会長)の確約書

⑤ 水利権放棄書

⑥ 財産区住民総会議事録

そして、その上で、被告和泉市長は、それらの書類をも添付して大阪府知事に対して認可申請を行い、法定の処分手続きを進めることになるのである。現に本件においてはそのような手続がなされて、大阪府知事の認可が昭和六一年三月二七日付でなされている(<書証番号略>、証人池辺功の証言(第一回))。

(2) 実行組合長の同意書及び水利権放棄書の瑕疵

本件要綱に従い本件土地(ため池とその堤)の処分申請に際して提出された実行組合長の同意書は、実行組合長山下常夫作成名義であるが、同人は本件土地を管理する王子実行組合(これは、信太農業協同組合の支部である。)の組合長ではなかった。また、水利権放棄書は、手洗池管理責任者山下常夫作成名義となっているが、同人は王子実行組合の組合員ではないし、本件土地から利水していた水利権者でもなかった(<書証番号略>、証人山下常夫の証言)。従って、右各書類は本来権限を有する者の作成にかかるものとはいい難いので、その意味では瑕疵があるものといわざるをえない。

しかしながら、<書証番号略>及び証人池辺功(第一回)、同山下常夫の各証言によれば、本件土地の売却当時現実に本件土地の水を利用して農業を営む者は既にいなくなっていたこと、昭和五六年七月一六日頃本件土地に隣接する王子財産区財産である宮谷池が売却された際も、実行組合長の同意書及び水利権放棄書に関しては本件土地の売却のときと全く同一の体裁のものが提出されたが、そのことに関してその後何らの問題も起きていないことが認められる。もっとも、手洗池(本件土地)の水掛かりに農地を所有するが山下常夫に水利権の放棄を申し入れたこともなく、水利権放棄書に署名したこともない旨記載された坂上竹一、藤本吉治郎及び山下終雄の三名の各作成名義に係る「手洗池の水利権について」と題する書面が証拠として提出されているが(<書証番号略>)、これらの存在のみをもって右認定を覆すことはできない。そうすると、実行組合長の同意書及び水利権放棄書の前記の瑕疵は、実質的には重大な意味をもつものとはいえない。

(3) 財産区役員の同意書の瑕疵

本件要綱に従い本件土地の処分申請に際して王子財産区を構成する王子町宮本町会及び王子町会からそれぞれ部落役員同意書が提出されたが、そのうち王子町宮本町会の部落役員同意書(その作成日付は昭和六一年二月一三日となっている。)及びその作成名義人らの各印鑑登録証明書は、いずれも本件売買契約の締結に当たって作成されたものではなく、昭和五八年六月頃、本件土地について登記簿の表題部の所有者欄に共有地と記載されていたのを王子財産区とする更正登記及び所有権保存登記を行うために法務局に提出する目的で作成されたものであって、それが本件土地を被告遠藤に売却する際に流用されたのである(<書証番号略>、証人池辺功(第一回)、同山下常夫の各証言)。従って、その意味では、右部落役員同意書には瑕疵がある。

しかしながら、右各証拠によれば、右更正登記及び所有権保存登記は、当時本件土地を売却する話がかなり具体化していたことを受けて、売却処分を行うための準備としてなされたものであるから、宮本町会の役員らは右部落役員同意書の作成に当たっては当然本件土地の売却に同意してしたこと、及び、その後本件認可申請時までに宮本町会の役員らに変更はなく、かつ、それらの者の同意が撤回された事実もなく役員らは本件土地の売却に同意していたことが認められる。そうすると、本件売買契約の締結に当たって部落役員同意書が流用されたという前記の瑕疵は、実質的には重大な意味をもつものとはいえない。

(4) 財産区住民総会議事録の瑕疵

本件土地の処分申請に際しては本件要綱に従い王子町宮本町会総会議事録及び王子町会総会議事録が提出されているが、王子町宮本町会及び王子町会のいずれの町会においても、事前に本件土地の処分の可否を議題として町会総会を開催する旨の通知を町会の構成員に対してなした上での町会総会は開かれておらず、各町会で役員を含む一部の者らが集まってその会合を総会扱いとすることを承認した上で、そこにおいて本件土地の売却に同意するとの決議を行ったに過ぎず、右各総会議事録にもその旨の記載がなされている(<書証番号略>、証人山下常夫の証言)。従って、右各総会議事録は、本来の町会総会の議事録とはいえず、その意味では瑕疵があるものといえる。

しかしながら、<書証番号略>及び証人山下常夫の証言によれば、従前より王子財産区財産の処分の際には、町会の役員を含む一部の者らが集まってそれを総会として承認するという本件土地の売却時と同じ取扱がかなり慣例化しており、前記宮谷池の処分時にも同様の手続きがなされたことが認められる。また、本件要綱においては財産区財産の処分申請に当たり被告和泉市長に提出する書類の一つとして財産区住民総会議事録が挙げられてはいるが、それ以外に住民総会の開催や議決のための手続要件等について何ら規定されているわけではないから、本件要綱が予定している町会総会がどの程度厳格な手続を経たどのような内容のものかは必ずしも明らかではない。このような点からすると、本件土地の売却に当たって開かれたという各町会総会は本来の町会総会とはいい難いものではあるが、その点の瑕疵は必ずしも重大なものとまでいうことはできないと考えられる。

(5) 大阪府知事の認可の違法無効

被告和泉市長から大阪府知事に対する法二九六条の五第二項の認可申請は、前記の各書類をも添付してなされるのであるが、右認可は、財産区住民の福祉の増進等の見地から合目的的に広範な一切の事情を考慮して知事の自由な裁量に基づいてなされるべき行為であって、地方自治法上認可の可否を決するに当たっての具体的基準は何ら規定されておらず、原告らが主張する前記の各書類上の瑕疵は、和泉市が設けた財産区財産の処分に当たっての内部的な取扱要領に違反するに過ぎない。そして、それらの瑕疵は、いずれも前記のとおり必ずしも重大なものとはいい難いのであるから、それらの瑕疵があったからといって大阪府知事の認可に重大かつ明白な違法がありそれが無効になるということはとうていできない。

従って、認可申請書添付書類の前記の瑕疵を理由として大阪府知事の認可が無効であるとする原告らの主張は理由がない。

(二) 山下常夫一人の意思による売却、処分理由の不存在等による無効

<書証番号略>及び証人山下常夫、同池辺功(第一回)の各証言によれば、王子財産区の両町会内の役員を含む多くの者らの間でかなり以前より、農業用に利水する者のいなくなった本件土地を売却して代金を町会の諸費用に充てたいという意向が根強くあり、このような意向を汲んで本件土地の売却がなされたことが認められ、本件土地の売却が山下常夫一人の意思に基づいて進められたと認めるに足る証拠はない。また、売却の申請に当たり本件要綱に従って提出された書類に瑕疵があったことが知事の認可の無効事由にならないことは前述のとおりである。

更に、<書証番号略>及び証人山下常夫、同池辺功(第一回)の各証言によれば、本件土地の処分についての大阪府知事に対する認可申請に当たって処分理由とされたところは、本件土地についての悪臭の除去、防護柵の設置等の維持管理の必要性及び処分代金を王子財産区内の水路や他のため池等の改修工事に充てるためというものであったと認められるが、<書証番号略>によれば、昭和五六年七月一六日頃王子財産区財産である宮谷池が売却されて、売却代金から王子町宮本町会及び王子町会に合計約一億一〇〇〇万円(王子町会には八九六九万五九五七円)が入金されたこと、本件土地の売却代金から王子町宮本町会には昭和六一年四月八日頃四四七一万二二二五円が入金されたが、それから昭和六三年四月一六日までの間にそこから二八〇万円余りしか支出されていないことが認められ、これらの事実及び<書証番号略>によれば、本件土地が売却された当時前記の処分理由に挙げられたような事情から本件土地を売却しなければならない差し迫った必要性があったとはいい難いといわざるをえない。しかしながら、前記認定のとおり、王子財産区の両町会内の役員を含む多くの者らの間でかなり以前より、農業用に利水する者のいなくなった本件土地を売却して代金を町会の諸費用に充てたいという意向が根強くあって、このような意向を汲んで本件土地の売却がなされたのであり、従って、大阪府知事に対する認可申請の際に処分理由とされたところが必ずしもそのまま真実には合致しなかったことをもって、認可を無効とするほどの重大明白な違法事由ということはとうていできない。

よって、以上のような諸点を理由として大阪府知事の認可が無効であるとする原告等の主張は失当である。

3  随意契約の制限に関する法令違反による無効

(一) 法二三四条一、二項によれば、地方公共団体の契約を随意契約によってなしうるのは、政令で定める場合に該当するときに限るとされ、令一六七条の二第一項で随意契約によることができる場合が定められているが、本件売買契約は、同項二号及び五号に該当するものとして随意契約によってなされたものである(<書証番号略>、証人池辺功の証言(第一回))。

(二) 令一六七条の二第一項二号該当性

(1) 被告らが令一六七条の二第一項二号に該当する理由として主張するところは、「信太の森を守る会」の住民等からの本件土地の売却処分及び宅地化に対する反対が強かったため、本件売買契約においては、本件土地を売却代金完納の日から一〇年間現状有姿のまま保存することとその間の転売禁止及びこれに違反した場合の買戻しが条件とされた上、買主は右保存期間内本件土地に関する悪臭の除去や防護柵の設置等の維持管理を余儀なくされるので、買主にとって非常に不利な内容となっており、本件土地の売却価格にも鑑みた場合、本件土地の売却を競争入札に付しても落札の可能性はなかったこと、及び被告和泉市長の指導により買主をして本件土地に関する右のような維持管理を実行せしめる必要があったことから、競争入札によっては目的を達することができないおそれがあったので、本件売買契約は競争入札に適さず令一六七条の二第一項二号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当したというのである。

(2) <書証番号略>、証人池辺功の証言(第一回)及び被告遠藤本人尋問の結果によれば、本件土地の文化的、歴史的、学術的、自然環境的価値等からその保存を主張する「信太の森を守る会」の住民等からの本件土地の売却処分及び宅地化に対する強い反対があったため、本件売買契約においては、本件土地を売却代金完納の日から一〇年間現状有姿のまま保存することとその間の転売禁止及びこれに違反した場合の買戻しが条件とされたこと、また買主に対しては少なくとも右保存期間内ため池である本件土地に関する悪臭の除去や防護柵の設置等の維持管理を行うことが要請されたこと、本件土地の売却価格は、昭和五八年一二月に本件土地を売却しようとした際の和泉市財産評価審査委員会の答申による適正評価額が一平方メートル当たり三万五〇〇〇円(証人山下常夫の証言によれば、この時点までには既に本件売買契約に右条件が付されるようになっていたと認められるから、右価格はそれを考慮したものであると考えられる。)であったところ、それから売却時点までの大阪府下全般の土地価格の上昇率が約一〇パーセントであることを考慮して、その期間の経時的な修正率としてはその倍である二一パーセントの増加を見込んで、一平方メートル当たり三万五〇〇〇円の二一パーセント増しの四万二三五〇円と決定されたこと、昭和五八年当時本件土地を売却しようとした際には、前記のような条件がついたため前記の和泉市財産評価審査委員会の答申による評価額での買手はなく、その後も王子財産区では引き続き本件土地を売却したい意向をもって買手を求めていたが、本件売買契約時点まで被告遠藤以外の買手は全くつかなかったこと、以上の事実が認められる。

(3) 本件売買契約の前記のような条件は必ずしも買手について特段の資力、信用、技術、経験を要求するものとはいえないし、ため池の維持管理の要請についても同様のことがいえる。従って、このような条件及び要請が直ちに本件売買契約を競争入札に適しないものにするということはできない。しかしながら、前記のような本件土地の売却価格の決定方法及び従前から本件土地の買手がつかなかった経過等をも併せ勘案すると、前記のような条件を付けて本件土地の売却を競争入札に付しても右売却価格(競争入札ではこれが予定価格になったものと考えられる。)での落札の可能性がないとした被告和泉市長の判断にもあながち合理性がないとはいえない。そうすると、買主をして本件土地に関する前記のような維持管理を確実に実行させる必要性があったことをも勘案した場合、本件売買契約は競争入札に適しないから令一六七条の二第一項二号に該当するとまで言い切れるか否かについては疑問があるとしても、そのような判断が合理性を欠き不当であることが明らかであるとまでいうことはできない。

(三) 令一六七条の二第一項五号該当性

(1) 本件土地の売却価格は前記のとおり、昭和五八年一二月の和泉市財産評価審査委員会の答申による適正評価額一平方メートル当たり三万五〇〇〇円に、それから売却時点までの大阪府下全般の土地価格の上昇率約一〇パーセントの倍である二一パーセントの増加をその期間の経時的な修正率としてその分を上乗せし、三万五〇〇〇円の二一パーセント増しの四万二三五〇円と決定されたのであるが、被告らは、右決定方法や参考に徴した近隣のため池の売買事例、不動産鑑定士の意見及び本件土地の利用に関する前記条件による制限等に照らすと右売却価格は時価より著しく高額であるから、本件売買契約は、令一六七条の二第一項五号の「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき」に該当したと主張する。

(2) 原告らは、前記宮谷池の適正売却価格が一平方メートル当たり五万七四七六円であった(<書証番号略>)ことからして和泉市財産評価審査委員会の答申による前記評価額は不当に安すぎると主張するが、<書証番号略>及び証人池辺功(第一回)、同山下常夫の各証言によれば、宮谷池の場合は売却当時既に埋め立てられていたし、本件売買契約のように一〇年間転売を一切禁止するといったような条件も付されていなかった(五年間転売は禁止されるが、買主が宅地建物取引業を営み、かつ宅地建物の分譲販売を目的とする場合には、王子財産区が予め承認した初回の個人向所定区画に限り、分譲販売ができることとされている。)と認められるから、宮谷池の価格との単純な比較で右評価額が不当に安いということはできない。

しかしながら、昭和五八年一二月から本件土地の売却時点までの期間の本件土地価格の上昇率は大阪府下全般の土地価格の上昇率と一致するとは限らずそれを上回った可能性があるし、たとえ大阪府下全般の上昇率と同様であったとしても、右売却価格は、単純に昭和五八年一二月時点の前記評価額(これは前記のとおり、本件売買契約に前記条件が付されることを考慮したものであると考えられる。)に経時的な修正率一〇パーセント分を上乗せした金額を一〇パーセント上回るに過ぎないのであるから、これらの点を考慮すると、右の程度でもって競争入札の原則の例外として随意契約をなすことが許されるほどの「時価に比して著しく有利な価格」といえるか否かは疑問である。被告らは、参考に徴した近隣のため池の売買事例や不動産鑑定士の意見にも照らすと右売却価格は時価より著しく高額であると主張するが、近隣のため池の売買事例や不動産鑑定士の意見なるものの具体的内容は証拠上何ら明らかではないから、このような事情を斟酌する余地はない。

(3)  しかし、右のような売却価格の決定方法がそれなりの合理性を有するものであることは明らかであり、前記のとおり従前から本件土地の買手がつかなかった経過等をも併せ勘案すると前記のような条件を付けて本件土地の売却を競争入札に付しても右売却価格での落札の可能性がないという判断にも合理性がないとはいえないのであるから、右売却価格が「時価に比して著しく有利な価格」に当たるとした被告和泉市長の判断にもあながち合理性がないとはいえない。そうすると、本件売買契約は令一六七条の二第一項五号に該当するという判断が合理性を欠き不当であることが明らかであるとまでいうことはできない。

(四) 黒鳥土地買収のための本件土地の売却

(1) 原告らは、本件土地の売買が随意契約でなされたのは、黒鳥土地を買収するためにどうしても本件土地を代替地として被告遠藤に売り渡す必要があり、しかもその売買価格を同被告の要望に従って黒鳥土地の売買価格と釣り合った不当に低いものにしなければならなかったからであり、本件売買契約は、専ら被告遠藤の個人的要望に応じる目的から、売買価格についての鑑定もしないで不当に低い金額で随意契約によってなされたもので、その動機、代金額の決定が不当に歪められたものであるから違法である旨主張する。

(2) <書証番号略>、証人遠藤裕康、同池辺功(第二回)、同北尾保、同浅野泰の各証言及び被告遠藤本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

和泉市では、同市の公園用地として被告遠藤所有の黒鳥土地を取得する必要があったため、昭和六〇年春頃から買収交渉を行っていたところ、同被告から買収のためには代替地を取得できるようにしてもらいたいとの希望が出された。そこで、代替地としていくつかの候補地があげられたが、価格等の関係で適当なものがなく、昭和六〇年中頃には同被告が本件土地を黒鳥土地の買収の見返りに取得するのに適当な土地として希望するようになった。そこで、和泉市と同被告との間で、黒鳥土地の買収交渉と同時に、他方で本件土地についての売買交渉がなされるようになった。同被告は、その過程で、黒鳥土地と本件土地の価格が釣合いほぼ同額になることや、両方の土地の売買が同じ時期になされることを希望したが、結果的には、本件土地についての売買契約が、昭和六一年三月三日売買代金九一五一万八三五〇円で成立して、同年四月八日頃代金の支払いがなされた。しかし、同月九日には、実測面積が公簿面積より少ないことを理由として王子財産区から同被告に対し四二〇万円が返還されているので、実質的には売買代金は八七三一万八三五〇円となった。他方、黒鳥土地についての売買契約は、同年六月一三日売買代金八六七〇万〇八〇〇円で成立した。

(3) 以上の経過からすると、和泉市では、黒鳥土地を買収するための見返りとして本件土地を同被告に売却したいという意向を有していたであろうことは推認できるものの、本件土地の売却価格が決定された経過は前記(二)に認定したとおりであり、それが黒鳥土地の価格と釣り合わせるため不当に低いものにされたと認められるような証拠はない。従って、本件売買契約は、その内容が不当に歪められたものであるということはできず、また、和泉市が右のような意向を有していたからといって本件売買契約を随意契約の方法によってなしたのが違法であるということはできない。

(五)  地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して締結した契約は、令一六七条の二第一項の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り私法上無効になるところ(最高裁昭和五六年(行ツ)第一四四号昭和六二年五月一九日第三小法廷判決)、以上に認定したところによれば、本件売買契約は、令一六七条の二第一項二号及び五号に該当するといえるか否かについては疑問があるとしても、それが同項二号及び五号に該当するとした被告和泉市長の判断にもあながち合理性がないとはいえない。また、前記(三)、(四)記載のとおり、本件土地の売却価格の決定方法はそれなりの合理性を有するものであって、それが適正な時価に比して不当に低額であるとはとうていいえず、むしろ「時価に比して著しく有利な価格」と考えるのも合理性がないとはいえないような価格であるし、黒鳥土地の価格と釣り合わせるために本件売買契約の内容が歪められたというような事情も認められないから、本件売買契約が随意契約の方法によってなされたことにより王子財産区ないし和泉市に財政的観点からみて損害が発生した可能性を肯定することは困難である。更に、証人遠藤裕康の証言及び被告遠藤本人尋問の結果によれば、被告遠藤は、昭和三五年ころから小幅綿布の生産、販売を業としてきたが、昭和五二年頃からは次男に営業を任せて仕事から身を引き悠々自適の生活を送っていたもので、従前不動産取引や地方公共団体との取引に関わったことはないこと、同被告が本件土地を買い受けることになったのは、先祖から受け継いだ黒鳥土地を買収されるので先祖伝来の不動産を減らしたくないという思いから代替地の取得を希望し、たまたま本件土地が価格等の条件面で釣り合ったことから本件売買契約の締結に至ったというだけのことであって、同被告は、本件売買契約当時信太の森を守る会等の反対運動は既に決着がついて問題はないと思っていたし、売買契約の手続き、価格等契約内容の決定についてはすべて和泉市を信用してこれに任せ、その担当者のいうところに従っていたことが認められ、同被告が本件売買契約を随意契約の方法で行うことに関しては法令上問題があることにつき認識を有していたとか、有することができたといえるような事情は何ら認められない。

そうしてみると、本件売買契約については、令一六七条の二第一項の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかであるとか契約の相手方において随意契約の方法による契約の締結が許されないことを知り又は知り得べき場合であったということはできないし、本件売買契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加えて契約の公正及び価格の有利性を図り地方公共団体の財務行政の適正な運営を確保しようとした法令の規定の趣旨を没却する結果になるということもできない。よって、随意契約の制限に関する法令違反を理由として本件売買契約が無効であるとする原告らの主張は失当である。

二本件売買契約の実体法上の違法による無効

住民訴訟は、地方公共団体の執行機関又は職員による財務会計上の違法な行為又は怠る事実によって地方公共団体に財務上の損害が生ずるのを防止して財務行政の適正な運営を確保する目的で、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与えたものであるから、そこにおいては専ら財務会計上の行為の違法性のみを行為の違法理由として主張しうるのであるが、原告らの被告和泉市長は本件土地の文化的、歴史的、自然環境的価値に基づきこれを文化財として保存すべきであるのにその義務に違反したという主張は、明らかに財務会計行為に属さない行為についての違法をいうものである。従って、原告らの右の主張は失当である。

その他、本件土地の売却代金が不当に低額であるといえないことは前記一3(三)に述べたとおりであるし、その使途が違法であるといえるような事情は何ら認められない。

よって、本件売買契約が実体法上の違法により無効になるとする原告らの主張は理由がない。

第三結論

以上によれば、原告松尾千代一、同高橋理喜男、同松尾タマエ、同高田春次、同大植末一、同松尾千人、同上田俊継、同上田朝子、同竹本嘉、同竹本キヨエ、同松尾洋治、同松尾恵子、同河本文子、同脇田浩司、同脇田啓子、同中村義彦、同中村忍、同西野昌彦、同竹田博、同斎藤吉雄、同本田義男、同本田冨美、同一井正好、同斎藤喜代子、同高田タヅ子、同花田茂義、同花田美恵子、同葭田敏弘、同真田ふみ子の各訴え、及び原告岡田スズエ、同三谷武久、同三谷紀久子、同高井鎌治郎、同高井良子、同土井美知治、同土井スミ子の被告和泉市長に対する本件土地を文化財として適切に管理し保存する手続をとらないことの違法確認を求める各訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、原告岡田スズエ、同三谷武久、同三谷紀久子、同高井鎌治郎、同高井良子、同土井美知治、同土井スミ子のその余の各請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松尾政行 裁判官山垣清正 裁判官明石万起子)

別紙物件目録

(一) 所在 和泉市王子町

地番 九一八番一

地目 ため池

地積 一九七六平方メートル

(二) 所在 和泉市王子町

地番 九一八番二

地目 堤

地積 一八五平方メートル

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